ELP、エマーソン、レイク&パーマーのファーストアルバムに収録されている「ラッキー・マン」ですけれど、あれって最初の節から葬式を描写している歌ですよね。英語が堪能な人には何を今更って話かと思いますけれど、最近気がついたのでちょっと衝撃。
このアルバムを最初に聴いたのは中学校の頃で、英国盤のアナログレコードでした。と言うか、当時はアナログレコードしかなかったですね。かなり反っている上に盤の仕上げも良くないのか針が拾う雑音も多く、再生状態はそんなに良くなかったです。それでも再生されるサウンドそのものは薄っぺらくなく、彫りが深くて良い音のなのが印象的でした。
B面はキース・エマーソンの荘厳なオルガンで始まる「The Three Fates」、カール・パーマーのドラミングが印象的な「Tank」、そしてグレッグ・レイクのソロかと思える「Lucky Man」の3曲で、今から思えばソロアルバムから3曲を集めたかのようでした。それぞれのソロパートを集めた、後のアルバム「Works Volume 1」のABC面を思わせますね。
エマーソンのキーボードを期待して聴いていた中学生の私には、「Lucky Man」はちょっと地味に思えたかな。
それであまり歌詞に注目して聴いたこともなく、漫然とタイトルどおりに「幸運な人」の歌なのかと思っていました。それにしては歌詞の最後では死んじゃいますし、よくわからない歌だなと思っていました。
改めて歌詞に注目して聴いてみると、最初の節では彼は白い馬を複数形で所有していたとあるので、身分の高い人であることが示唆されます。それで過去形なので今は所有していないのですよね。そしてドレスの多くの女性が並んで待つ the door って、教会のドアでしょうか。
彼はなんてラッキーマンだったんだろう、とここも過去形のコーラスに続く第2節では白い羽布団と金でカバーされたマットレスと高級なベットなのですが、「彼は横たえられた」って受け身です。だから、彼は遺体であると思われます。
ここまで、第1節と第2節が葬式を描写している歌ですよね。
コーラスとギターソロの後の第3節では、国のために、そして彼自身の栄光のために戦争に行った。そして、第4節では弾に当たって死んだ、いくらお金を持っていても救われなかった。こんな歌詞です。
全然ラッキーじゃなくて、戦争と貴族を皮肉っているのですよね。そう思うようになってから、この曲を聴く頻度が上がりました。
ELPの前のバンドのキング・クリムゾンのファーストアルバムの衝撃的な「21世紀のスキゾイド・マン」もベトナム戦争に対するプロテストソングだそうですし、グレッグ・レイクはずっと反戦的な歌を、それも声高に主張するのではなく皮肉って歌っていたように思います。
それが昇華されたのが、実質的なラストアルバムの「ラブ・ビーチ」のB面を占める組曲の「Memories of an Officer and a Gentlemen」でしょうか。こちらでは(たぶんドイツ軍の)爆撃で亡くなるのはロンドンにいる新婚の奥さんの方ですけれど、Officer で Gentlemen である彼は悲しむこともできず国のために尽くすって歌詞ですよね。「Lucky Man」の歌詞をより高度に昇華させて、戦争の悲劇とそんな生き方をする貴族を強烈に皮肉った組曲なんだろうと思います。
話をファーストアルバムの方に戻すと、2012年にリリースされた2枚組版では、CD2はティーブン・ウィルソンのリマスタリングによるオリジナルアルバムです。こちらは特にB面の方は音源がなかったのか随分妙な構成になっていますけれど、その後のCD最後に入っているデモ版の「ラッキー・マン」2曲はとても興味深いです。
最初の方はもっとアコースティックギターとコーラスが目立ったフォーク調の仕上がりで、ドラムもキーボードも入っていません。コーラスの「ウー」って入るところが力が入りすぎで垢抜けない感じがします。
2曲目の方はドラムも入ってコーラスも洗練されて完成版に近づきますが、途中のギターソロがなくてコーラスだけです。そして、最後にはキース・エマーソンのムーグサウンドの代わりにエレキギターをかき鳴らすソロが入っています。これがのちのムーグサウンドに置き換わったようです。
この2曲は、曲を完成させるアレンジの過程を垣間見ているようでとても興味深いと思います。残念ながら Apple Music では聴けないようです。入手するならCDの2枚組版が良いと思います。